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2022年5月に、日本復帰50年を迎えた沖縄。
これを節目として、沖縄の歴史とともに生きてきた人々の来し方を聞き取って文章に残そう、
という沖縄タイムス社の企画が結実したのが本書である。
沖縄タイムス紙上での募集に応えた「聞き手」たちが、
それぞれ思い思いの「語り手」を選び、その人生を聞き取って生活史として仕上げた。
紙上に、およそ半年以上にわたって連載された85篇に加え、
新聞には掲載しなかった15篇を合わせた、計100篇の生活史がここにまとめられている。
巻頭と巻末にはそれぞれ、監修者のまえがき、あとがきを収録する。
「私は本書のどの語りの、どの部分を読んでも、深い感慨と感動をおぼえます。
ここには語り手たちが経験した「沖縄の戦後」が、確かに存在するのです」
(岸政彦、まえがきより)
「数多くの沖縄の人たちから聞き取りしてきたにもかかわらず、
庶民の生活の奥深くに分け入り、心の襞に触れるところまでは、
聞き取りはしていなかったか、と思わざるを得ない語りにも出会えました」
(石原昌家、あとがきより)
まえがき 岸政彦
あの時の東京はね、お店の正面に「沖縄者お断り」って書いてあったんだよ。野蛮人と言ってから
聞き手=安里優子(五七) 語り手=母・池原春子(八四)
爆弾の破片とか、買いに来る業者がいたわけ。家にね。そこの業者さんに売ったりしてた。小遣い稼ぎ。一キロ売ったらいくらだよということで
聞き手=安谷屋佑磨(二九) 語り手=父(六二)
なんでないのって聞いたら一番上の兄が(給料を)そっくり持っていってあるわけよ
聞き手=新川真奈美(三二) 語り手=祖母(七四)
努力しなくて、なんとかなるさじゃないわけよ。努力しての結果が「なんくるないさ」、それ全然違うね
聞き手=泡☆盛子(五〇) 語り手=幼馴染の母・添盛文子(七一)
でも、見てくれてたんだぁー、分かってくれてたんだぁーってのがあって。すごいあの言葉は忘れられなかった
聞き手=上原健太郎(三七) 語り手=糸満市出身の女性(六〇代)
夜寝られない。起こされて、もう亡くなる人が、亡くなった人が来てよ、もう死んだまま。もう大変だった。墓が開く時は、誰がって分かりよったわけよ
聞き手=大城沙織(二五) 語り手=男性(八一)
ずーっと耳で、なんか日本語分かると思ってたんだけど、あれ日本語じゃなかったね。ほぼ半分以上はもう、うちなーぐち
聞き手=加藤勲(四〇) 語り手=安富祖美智江
飛行士が見えるのよ。見えるんだよ。パイロットが。ぷわーっとやってね、ぷわーっと逃げたのよ。全員無事だったけど、屋根が燃えてよ
聞き手=神村メイ(六九) 語り手=夫の叔父・新垣昌也(八四)
人間はね、どんな苦労でも、金で使われていると、金に使われていると思ったらどんな苦労でも耐えきれるという話、聞かされたから。ああ人間は、そうだねえと言って
聞き手=岸政彦
うちなーぐちを使えるようになったのは沖縄に帰ってきてから。生活のために覚えたさ
聞き手=金城さつき(四〇) 語り手=玉城秀子(八四)
ニュースペーパーボーイ、ユーノウ?
聞き手=具志堅大樹(二九) 語り手=両親の友人(六〇代)
うん、モテて大変だった。モテモテ(笑)。内地に連れて帰ろうかなぁ、って、まあ、おべっか言う人もいたよ
聞き手=久保山亜希子(三四) 語り手=母(七〇)
いい絵を描けばアメリカーでも認めてくれるんじゃないのっていうのもあるわけ。それで、美術を一生懸命やり始めたわけ
聞き手=酒井織恵(五二) 語り手=父・稲嶺成祚(八九)
どんな人かねと。色が白くて髪が長くて、髪が長いというだけでジュリ(遊女)じゃないか、みたいな。みんな、見に来るわけ
聞き手=城間美咲(三八) 語り手=富田初江(八四)
そうサミットが始まる前だったからね。「G7って付けた方がいいんじゃないか」って言ったらさ、そのあとにG7が始まったさ
聞き手=知念渉 語り手=赤嶺千穂子、夫=芳弘
なんか、あっちから通るバス見たら、ああ、あのバスどこ行くんだろうな、乗ってみたいなぁって思ってた
聞き手=知念真由美(五七) 語り手=母(八三)
手続きしたら、これ何人て書くんですかーってなったわけさ、だから琉球人って書きなさいって言われたよって言ってるわけ
聞き手=知念ゆかり(二四) 語り手=父の姉(七八)
五〇〇円と言われて、五〇〇円くらいなら何とかならなかったかな、って今考えたら思うけど、あれも悔しかったよ、りま
聞き手=徳森りま(三四) 語り手=父・徳森栄春(六二)
超ショック。何か分かんない。もうソーセージ食べられなくなった
聞き手=富山勝代(四九) 語り手=友人・えーみー(四八)
いつもさ「もう少しだよ、もう少しだよ」って。いつもその言葉にさ、ばあちゃんはさ、その言葉につられてずっと一緒にじいちゃんと仕事していた
聞き手=仲地二葉(三〇) 語り手=祖母・照屋キヨ子(八一)
でも僕も若くて、「日本語上手ですね」って言われて「あなたより上手かもしれませんね」なんて言って(笑)
聞き手=仲程玲(四〇) 語り手=伯父・江川義久(七七)
軍歌、嫌なぐらい分かるわけ。兄たちがいつも軍歌歌うから聞き覚えて。教育って大変よ。軍歌まだ覚えているもん、小学生の女の子だったのに
聞き手=仲間尚子(六一) 語り手=母・玉城千代(八七)
「育てもしないくせに」って。泣きよったよ。口から出しよったよ。「育てもしないくせに」って。その時は恨みよった
聞き手=鉢嶺京子(四一) 語り手=祖堅秀子(八三)
着いて、第一声が教授に呼ばれて、「日本語話せるね?」って
聞き手=比嘉あんの(一六) 語り手=祖母・高良敏子(八四)
うん。法律が適用されるさ。アメリカの法律じゃなくて、日本の法律。それが、一番のうれしさだったな
聞き手=前原洸大(二四) 語り手=仲村渠實(八二)
新川のお墓へ行く時は、牛に車ひかせて、みんな乗せて行った。牛はゆっくりだからいいわけさ。あー、あの時、カメラがあったら写したのにねー
聞き手=松井裕子(七一) 語り手=中村トヨ(八六)
沖縄で墓を初めて見てびっくりしたよ。防空壕だと思った
聞き手=松岡幸子(七五) 語り手=上運天賢盛(九〇)
たばこをやめた日です。五月一五日に何をしていたかというと……たばこをやめる以外には何もなかったような気がするけれども
聞き手=山口祐里瑛(二四) 語り手=祖父・仲里政幸(九一)
役場から公報来て、大暴れして「今すぐ天皇陛下連れてきて、殺せー!」って言ったよ
聞き手=山本和(二六) 語り手=田中美江(九二)
だから全然記憶がないんじゃ。そういう子ども、記憶がない子ども
聞き手=雪田倫代(三七) 語り手=父(七八)
そんな時に、朝ごはんに納豆が出たの。いくらなんでも、私たちのことが嫌いだからって、こんな腐ったものを出すことないのにねって(笑)
聞き手=渡邉隆(三七) 語り手=母・渡邉敬子(六七)
例えば僕はよ、箸のつかみ方。八重山でも普通にごはん食べてるさ。日本ではどんなして使うのかなぁとか思ったりよ。一緒なのかな、違うのかな、と思ったりしてよ
聞き手=綿貫円(三三) 語り手=石堂徳一(七三)
あとがき――記憶の玉手箱のような存在 石原昌家
著者プロフィール
石原昌家 (イシハラマサイエ) (監修)
(いしはら・まさいえ)
1941年、台湾宜蘭市生まれ、沖縄県那覇市首里出身。
沖縄国際大学名誉教授。
沖縄の生活史、戦争体験などの研究。
主著は『虐殺の島――皇軍と臣民の末路』(晩聲社、1978)。
『大密貿易の時代――占領初期沖縄の民衆生活』(晩聲社、1982)(2000年に『空白の沖縄社会史――戦果と密貿易の時代』に改題して出版)、
『郷友会社会――都市の中のムラ』(ひるぎ社、1986)、
『沖縄の旅・アブチラガマと轟の壕――国内が戦場になったとき』(集英社新書、2000)、『国家に捏造される沖縄戦体験――準軍属扱いされた0歳児・靖国神社へ合祀』(インパクト出版会、2022)等多数。
1970年から沖縄県史、各市町村史字誌などの編纂執筆にかかわる。
沖縄の各平和資料館企画に参加。
第三次家永教科書訴訟(沖縄戦部分)や沖縄靖国神社合祀取消裁判等の専門家証人として証言。
全戦没者刻銘碑「平和の礎(いしじ)」の刻銘検討委員会元座長等歴任。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
岸政彦 (キシマサヒコ) (監修)
社会学者・作家。1967年生まれ。京都大学教授。
専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。
主な著作に『同化と他者化――戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版、2013)、
『街の人生』(勁草書房、2014)、
『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015、紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、
『質的社会調査の方法――他者の合理性の理解社会学』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016)、
『ビニール傘』(新潮社、2017)、
『はじめての沖縄』(新曜社、2018)、
『マンゴーと手榴弾――生活史の理論』(勁草書房、2018)、
『図書室』(新潮社、2019)、
『リリアン』(新潮社、2021、第38回織田作之助賞)
『地元を生きる――沖縄的共同性の社会学』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020)、
『東京の生活史』(筑摩書房、2021、紀伊國屋じんぶん大賞2022・毎日出版文化賞)、
『生活史論集』(ナカニシヤ出版、2022)など多数。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
沖縄タイムス社 (オキナワタイムスシャ) (編集)
沖縄県で発行されている日刊紙を発行する新聞社。
戦時中の唯一の新聞「沖縄新報」の編集同人を中心に1948年7月1日、那覇市で創刊。
「鉄の暴風」と表現された熾烈な沖縄戦など戦争の反省に立ち、
県民とともに平和希求の沖縄再建を目指したのが出発点になった。
27年間に及んだ米軍統治下では自治権の拡大や復帰運動で、住民の立場から主張を展開した。
1972年の日本復帰後も、在日米軍専用施設面積の7割以上が沖縄に集中することによる過重負担や、
基地があるゆえに起きる事件・事故、騒音などの被害、日米地位協定の問題などを追及する。
また、県民生活に寄り添い、子どもの貧困問題の解決などに向けた論陣を張る。
2023年に創刊75年を迎えた。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
【スタッフのコメント】
1972年5月15日を迎えるためには多くの犠牲者の存在があったと思うと心が痛みます。
日本の歴史、沖縄の歴史を知ることで今の自分が生きていれるありがたみを感じます。
目次を見るだけでもたくさんの物語あったのだとわかります。
ぜひ手に取ってみていただきたい一冊です。
タイトル:沖縄の生活史
出版社:みすず書房
著者:石原昌家(監修)/岸政彦(監修)/沖縄タイムス社(編集)
ページ数:880
発売年月日:2023/05/12
ISBN:9784622095989
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